クリスマスのひと言

毎年この季節になると思い出すこと。
既にどこかに書いたり人に話したりしてるから、今さらではあるのだけれど、でもやっぱり誰かに伝えたくなること。

高校3年生のクリスマスイヴ、私は当時大好きだった陸上部の先輩とデートしていた。
片思いが実って、嬉しくて楽しくて。何を話したかすっかり忘れてしまったけれど、とにかく長く一緒にいたいと思っていた。

あちこち歩いて原宿駅に着いたのは午後10時ごろ。母はさすがに怒っているだろう。
気は進まなかったけれど仕方ない。先輩に待っていてもらって、電話ボックスに入りダイヤルを回した。

「あ、ママ、私。遅くなってごめんなさい。あのね。。。」
「先輩、一緒なんでしょ? 代わってくれない?」
「えっ? ママ、遅くなったのは私が悪いんだから、先輩に代わる必要なんて。ねえ、ママ。ちょっと聞いて」
「いいから、代わってもらいなさい」

どうしよう。はっきり言ってママはとても怖い。先輩にだってビシッと文句を言っちゃうような人だ。
困った顔で電話ボックスの扉を開けた私に、先輩は「どうしたの?」と聞いた。
「母が代わってほしいそうです」と小さな声で言うと、先輩は黙って電話を受け取ってくれた。

原宿駅は昔もとても人が多くて、ボックスの外で待っている私の前をたくさんの人が通り過ぎる。
さっきまであんなに楽しかったのに……。
もう、もう、終わっちゃうのかな……。
先輩が電話ボックスから出てくるまでの時間は、長く長く感じられた。

「すみません。母は失礼なことを言ったんじゃないですか? 本当にすみません」と
ただただ下を向いて謝るしかない私に、先輩は言った。

「お母さんは
『由美子にとって今日は今までで一番幸せなクリスマスになったと思います。
ありがとうございます』 って言ってたよ」

思わず顔をあげた私の目に、先輩の笑い顔がうつった。
心の中で「ママ」と呼んで泣きはじめた私を、ずっとそのまま待っていてくれた。

先輩とは結局ご縁がなかったのだけれど、母のひと言は毎年のようによみがえる。

あれから33年。母が逝ってからでも、もう27年。
私は母のように子どもたちを思えているだろうか。
何を大切にしているのか、わかっているだろうか。

今の私を見たら、母はなんて言うのだろうか。

クリスマスイヴは、少しだけでいいから娘に戻りたくなる。そんな特別な夜だ。

※2012年12月25日Facebookノートに掲載したものです

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ちょっちょです。
4人の子どもと4人の孫に恵まれましたが、パートナーはおりません。たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさん楽しんで、たくさん悩んだ波瀾万丈な人生。まだまだ面白がろうと思っています。
私が感じていることが、どなたかの心に響けば幸せです。

※万覚帳(よろずおぼえちょう)とは、まだ余白がある帳面のことです。雑記帳、メモ帳